Happy☆Chocolate 後編

 

 

学校を出てから祐二も俺も無言で歩く。
さっきから、なんだか胸がモヤモヤして気持ち悪い。

(――なんだ、これ・・)

胸の辺りのシャツを掴んだ手はそのままで、段々痛みまで感じてきた。

「・・いてぇ」

ポツリ、と呟くように言う。
すると、いままで無言だった祐二が俺の顔を見る。
「どこか怪我でもしたのか?」
「――あ、いや・・そうじゃないんだけど・・」
モゴモゴ話す俺に、怪訝そうな表情をする祐二。
「どこが痛いんだ?」
「どこっていうか・・・その」
なんだか、言いにくくて更に言葉を濁す。

「・・・・?そこ?」
祐二は怪訝そうな顔のまま俺の胸を指す。
ハッとして、手を話すがもう遅い。
「胸が痛いのか?」
ジッと俺を見て言われたら、観念するしかない。
「・・ん、なんかさっきから胸が痛い」
「・・・・・?」
「あ、でも少し前までは、なんかモヤモヤしてて気持ち悪くってさ」
「・・・・・・・・」
「そしたら、段々じわじわ痛くなって・・」

(なんだろ、これ。もしかして俺、何かの病気か!?)

俺の言葉に思案する祐二。
顎に手を当てて考えているようだ。
「祐二、俺なにかの病気かなぁ!?」
だって、苦しいんだ。胸っていうより・・・心臓!?

「祐二、心臓だ!心臓が苦しいんだ!」

「し、心臓!?」

祐二が驚いた顔をする。
(祐二が驚くなんて――!ヤバいことなのか!?)
なんだかわけが分からなくて、泣きたくなってくる。

「そ、そうだ、学校出てから・・。祐二と話してる時からモヤモヤしてた!」
「――え、俺?」
「そうだよ!お前が本命がどうのって言ってた話!」
「??」
「なんか、お前が本命の子の話すると心臓がモヤモヤして、痛くて・・」
「――――え、おいそれ」
「頭ん中ぐちゃぐちゃになるし、分けわかんねーし!!」
言いながら、俺は頭を掻き毟る。
じんわり、と何故か涙まで浮かぶ。

「っ・・それって――」
「あぁぁ~もう!祐二責任取れ!!」

モヤモヤが苦しくなって、イライラして、気付いたら叫んでた。

(・・・あ、れ?)

なに言ってんの?俺。
俺の病気は祐二に関係ないじゃん。
見ると、祐二はぽかんと口を開けて固まっている。

「ぷ」

思わず、笑ってしまった。
あんなにモテるやつなのに、なんて間抜け面だ。
噴き出すだけでは収まらなかった俺の笑い声は徐々に大きくなる。

「あは、あははっ!」

苦しくなって、腹を押さえる始末だ。
(は、腹いてー!!)
ひいひい言って笑う俺の顔を思いっきり掴まれる。

「拓海」

顔を祐二の目の前に近づけさせられる。
間近から祐二の硬い声が聞こえた。

一瞬、息が止まる。

「拓海」

もう一度、呼ばれる。
いつも見てる顔なのに、なんだか無性に恥ずかしくなる。
「な、なんだよ!急に!手、離せよ・・」
「やだ」
「や、やだって・・・」

段々顔が赤くなるのを止めれない。

(な、なんだこれ。なんだこれ――!?)

ドクン、ドクン―と心臓が苦しくなる。
顔は更に赤くなる。

(ちょ、なんだこれーー!?)

ジッと見つめられるのが耐えられず目を閉じる。
「・・・なあ、心臓苦しい?」
「・・・・く、るしいよ・・っ」
「顔真っ赤だな・・」
「し、しらねー!ってかいい加減離せよっ!」
離れようともがくが祐二の手はビクともしない。

「俺の本命の子が気になる?」

ビクッと体が反応する。
さっきとは違う、ドキドキがする。
心臓は苦しい、同じはずなのに何故か心を冷えていくようだ。

「どんな子だと思う?」
「――しらねぇ」
「アホで鈍感で馬鹿で・・」
「し、しらねえって!俺関係ないもん!」
祐二がその子の話をする顔を見たくなくて、更にきつく目を閉じる。
「俺がどんなに好きかしらねーで毎日可愛い笑顔で挨拶すんの」
ドクン、ドクン、心臓がうるさい。
祐二の声もうるさい。

(や、だ・・やだやだ!聞きたくない!!)

目尻に涙がじんわり浮かぶ。
俺は、祐二の手の上から自分の耳を押される。
さっきから俺の頭は混乱してばかりだ。
でも、今は、この話を聞きたくなくて――。

「やだよぉ・・・」

ポロリ、と一粒涙が落ちる。
すると、目尻に柔らかい感触。

(―――――え?)


思わず目を開けると、目の前に笑顔の祐二。

「・・・い、今、なに・・」
何か柔らかい感触が・・ふにゅって・・。
「ごちそーさん」
ニッと笑う祐二は、そのまま顔を近づけて――。


ちゅ・・


「!!?」
俺の唇にキスしてきた。
「可愛い・・」
真っ赤になる俺に、囁く。
いつの間にか、頬にあった祐二の手は俺の背中に回っていた。
ギュッと抱きしめられて、混乱で目を白黒させる俺。

(なに?なんだ?一体、どーゆー・・)
よく分からない展開に、頭は回らない。
「くく・・まだ分かってない?」
「――へ?なにが・・?」
「だからアホだって言われるんだよ」
「あ、アホ―――?」
俺、アホなんて言われたことないけど・・・。
「しかも、自分の気持ちにも気付いてないし・・」
はあーと横から深いため息が聞こえた。
(俺の、気持ち――?)
また考えようとする俺を、祐二は遮る。

「俺の本命は、お前だよ」


(オレノホンメイハオマエ・・)

(祐二の、本命・・・・・・・・・俺!?)

しばらくの沈黙のあとに気付いた。
「え、だって、お前・・あれ?」
「んで、お前は俺のことが好きなの」

「・・・・・えええええーーー!!?」

な、なんだそれ!?
それじゃあ、俺達相思相愛みたいじゃんか!

「みたい、じゃなくてそうなんだよ!」
あ、声に出てた?
どうやら声に出していたようで、祐二は睨んでくる。
「ま、これぐらいしなきゃお前一生気付かなそうだし」
「そ――そうかも・・」
だって未だに実感がない。
俺が祐二を好き・・・・?
よく分からない。

俺が、まだ納得しかねる顔をしているのに気付いたのか、祐二が言う。
「俺に本命がいるって知ってショックだったんだろ?」

ショック?うーん・・。と、いうより――
「お前が、本命の子の話をする時の顔が――――嫌」

「・・・どんな顔してた?」
「なんか、嬉そーにわらっちゃってさ、にへーってキモい。」
あ、思い出したらなんかムカムカしてきた。
「き、キモいって。お前の事を考えて言ってたんだぞ」
「あ、そっか。俺か・・・」
そうか。ふぅん・・・、そっかぁ。
そう考えると、悪い気はしない。

「拓海、お前ね。無意識でヤキモチ妬いてんだよ」

「や、ヤキモチ~!?キショいこと言うな!そんなんじゃねえー」
「そうなんだよ!いい加減認めろ!お前は、俺の事が好きなの!」


イラついた様子で、怒鳴る祐二にムッとなる。
「んな自信満々に言うな!お、俺は認めねーーー!!」
真っ赤に染まった顔は隠しようがないが、それでも逃げるようにして走り出す。

後ろから祐二の声が聞こえたが、無視して自分の家を目指す。
ドキドキする心臓に、ニヤついてしまう口元を押さえる。
きっと認めてしまった方が早い気がするが、それでは祐二に負けた気になる。


だから、

 

だから――――

 


(もう一度、俺を落としてみやがれっ!!)

 

 

 

 

 

このお話はこれでおしまい。

もしかしたら、つづく、かも・・?

H22.2.19