学校を出てから祐二も俺も無言で歩く。
さっきから、なんだか胸がモヤモヤして気持ち悪い。
(――なんだ、これ・・)
胸の辺りのシャツを掴んだ手はそのままで、段々痛みまで感じてきた。
「・・いてぇ」
ポツリ、と呟くように言う。
すると、いままで無言だった祐二が俺の顔を見る。
「どこか怪我でもしたのか?」
「――あ、いや・・そうじゃないんだけど・・」
モゴモゴ話す俺に、怪訝そうな表情をする祐二。
「どこが痛いんだ?」
「どこっていうか・・・その」
なんだか、言いにくくて更に言葉を濁す。
「・・・・?そこ?」
祐二は怪訝そうな顔のまま俺の胸を指す。
ハッとして、手を話すがもう遅い。
「胸が痛いのか?」
ジッと俺を見て言われたら、観念するしかない。
「・・ん、なんかさっきから胸が痛い」
「・・・・・?」
「あ、でも少し前までは、なんかモヤモヤしてて気持ち悪くってさ」
「・・・・・・・・」
「そしたら、段々じわじわ痛くなって・・」
(なんだろ、これ。もしかして俺、何かの病気か!?)
俺の言葉に思案する祐二。
顎に手を当てて考えているようだ。
「祐二、俺なにかの病気かなぁ!?」
だって、苦しいんだ。胸っていうより・・・心臓!?
「祐二、心臓だ!心臓が苦しいんだ!」
「し、心臓!?」
祐二が驚いた顔をする。
(祐二が驚くなんて――!ヤバいことなのか!?)
なんだかわけが分からなくて、泣きたくなってくる。
「そ、そうだ、学校出てから・・。祐二と話してる時からモヤモヤしてた!」
「――え、俺?」
「そうだよ!お前が本命がどうのって言ってた話!」
「??」
「なんか、お前が本命の子の話すると心臓がモヤモヤして、痛くて・・」
「――――え、おいそれ」
「頭ん中ぐちゃぐちゃになるし、分けわかんねーし!!」
言いながら、俺は頭を掻き毟る。
じんわり、と何故か涙まで浮かぶ。
「っ・・それって――」
「あぁぁ~もう!祐二責任取れ!!」
モヤモヤが苦しくなって、イライラして、気付いたら叫んでた。
(・・・あ、れ?)
なに言ってんの?俺。
俺の病気は祐二に関係ないじゃん。
見ると、祐二はぽかんと口を開けて固まっている。
「ぷ」
思わず、笑ってしまった。
あんなにモテるやつなのに、なんて間抜け面だ。
噴き出すだけでは収まらなかった俺の笑い声は徐々に大きくなる。
「あは、あははっ!」
苦しくなって、腹を押さえる始末だ。
(は、腹いてー!!)
ひいひい言って笑う俺の顔を思いっきり掴まれる。
「拓海」
顔を祐二の目の前に近づけさせられる。
間近から祐二の硬い声が聞こえた。
一瞬、息が止まる。
「拓海」
もう一度、呼ばれる。
いつも見てる顔なのに、なんだか無性に恥ずかしくなる。
「な、なんだよ!急に!手、離せよ・・」
「やだ」
「や、やだって・・・」
段々顔が赤くなるのを止めれない。
(な、なんだこれ。なんだこれ――!?)
ドクン、ドクン―と心臓が苦しくなる。
顔は更に赤くなる。
(ちょ、なんだこれーー!?)
ジッと見つめられるのが耐えられず目を閉じる。
「・・・なあ、心臓苦しい?」
「・・・・く、るしいよ・・っ」
「顔真っ赤だな・・」
「し、しらねー!ってかいい加減離せよっ!」
離れようともがくが祐二の手はビクともしない。
「俺の本命の子が気になる?」
ビクッと体が反応する。
さっきとは違う、ドキドキがする。
心臓は苦しい、同じはずなのに何故か心を冷えていくようだ。
「どんな子だと思う?」
「――しらねぇ」
「アホで鈍感で馬鹿で・・」
「し、しらねえって!俺関係ないもん!」
祐二がその子の話をする顔を見たくなくて、更にきつく目を閉じる。
「俺がどんなに好きかしらねーで毎日可愛い笑顔で挨拶すんの」
ドクン、ドクン、心臓がうるさい。
祐二の声もうるさい。
(や、だ・・やだやだ!聞きたくない!!)
目尻に涙がじんわり浮かぶ。
俺は、祐二の手の上から自分の耳を押される。
さっきから俺の頭は混乱してばかりだ。
でも、今は、この話を聞きたくなくて――。
「やだよぉ・・・」
ポロリ、と一粒涙が落ちる。
すると、目尻に柔らかい感触。
(―――――え?)
思わず目を開けると、目の前に笑顔の祐二。
「・・・い、今、なに・・」
何か柔らかい感触が・・ふにゅって・・。
「ごちそーさん」
ニッと笑う祐二は、そのまま顔を近づけて――。
ちゅ・・
「!!?」
俺の唇にキスしてきた。
「可愛い・・」
真っ赤になる俺に、囁く。
いつの間にか、頬にあった祐二の手は俺の背中に回っていた。
ギュッと抱きしめられて、混乱で目を白黒させる俺。
(なに?なんだ?一体、どーゆー・・)
よく分からない展開に、頭は回らない。
「くく・・まだ分かってない?」
「――へ?なにが・・?」
「だからアホだって言われるんだよ」
「あ、アホ―――?」
俺、アホなんて言われたことないけど・・・。
「しかも、自分の気持ちにも気付いてないし・・」
はあーと横から深いため息が聞こえた。
(俺の、気持ち――?)
また考えようとする俺を、祐二は遮る。
「俺の本命は、お前だよ」
(オレノホンメイハオマエ・・)
(祐二の、本命・・・・・・・・・俺!?)
しばらくの沈黙のあとに気付いた。
「え、だって、お前・・あれ?」
「んで、お前は俺のことが好きなの」
「・・・・・えええええーーー!!?」
な、なんだそれ!?
それじゃあ、俺達相思相愛みたいじゃんか!
「みたい、じゃなくてそうなんだよ!」
あ、声に出てた?
どうやら声に出していたようで、祐二は睨んでくる。
「ま、これぐらいしなきゃお前一生気付かなそうだし」
「そ――そうかも・・」
だって未だに実感がない。
俺が祐二を好き・・・・?
よく分からない。
俺が、まだ納得しかねる顔をしているのに気付いたのか、祐二が言う。
「俺に本命がいるって知ってショックだったんだろ?」
ショック?うーん・・。と、いうより――
「お前が、本命の子の話をする時の顔が――――嫌」
「・・・どんな顔してた?」
「なんか、嬉そーにわらっちゃってさ、にへーってキモい。」
あ、思い出したらなんかムカムカしてきた。
「き、キモいって。お前の事を考えて言ってたんだぞ」
「あ、そっか。俺か・・・」
そうか。ふぅん・・・、そっかぁ。
そう考えると、悪い気はしない。
「拓海、お前ね。無意識でヤキモチ妬いてんだよ」
「や、ヤキモチ~!?キショいこと言うな!そんなんじゃねえー」
「そうなんだよ!いい加減認めろ!お前は、俺の事が好きなの!」
イラついた様子で、怒鳴る祐二にムッとなる。
「んな自信満々に言うな!お、俺は認めねーーー!!」
真っ赤に染まった顔は隠しようがないが、それでも逃げるようにして走り出す。
後ろから祐二の声が聞こえたが、無視して自分の家を目指す。
ドキドキする心臓に、ニヤついてしまう口元を押さえる。
きっと認めてしまった方が早い気がするが、それでは祐二に負けた気になる。
だから、
だから――――
(もう一度、俺を落としてみやがれっ!!)
このお話はこれでおしまい。
もしかしたら、つづく、かも・・?
H22.2.19